文字を使わず商品そのもの、あるいはそれに関係ある実物を看板にすることも多く見られた。これは字を読めない人にも一目で理解されたため、その種類も実に多種多彩であった。笠(かさ)屋・麻苧(まちょ)屋・鏡屋・数珠(じゅず)屋・籠(かご)屋などは実物現品を看板とする「実物看板」であったし、茶屋・酢屋・味噌(みそ)屋・醤油(しょうゆ)屋などは商品の容器をかたどって看板にした「容器看板」であったし、足袋(たび)屋・蝋燭(ろうそく)屋・矢立(やたて)屋・袋物屋・煙管(きせる)屋・帳面屋などは実物の模型を大きく作り、それをさげた「模型看板」であった。さらに湯屋の弓矢(弓射るー湯入る)、饅頭(まんじゅう)屋の荒馬(あらうまし)などの「判じ物看板」・「語呂合わせ看板」もたくさんあった。なんといってもこうした看板こそが江戸看板の特徴で、庶民の洒落・通を如実に表現している。こうした江戸看板は西日本の都市にも広まり、今日も古い商家に見ることができて楽しい。
なお、軒や店先に立てたり吊るしたりする軽便な看板は、閉店後は店内に取り込む例が多く、いまでも飲食店などで閉店の事を、一般に「もう看板ですよ」というのはこのためである。それはよく表現したものである。